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統 帥 綱 領とうすいこうりょう


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統 帥 綱 領とうすいこうりょう


「統帥綱領」「統帥参考」解説

統帥綱領(1928年)・統帥参考(1932年)わが国の兵学は初めに孫子の影響を受け、明治時代に至ってクラウゼウィッツの戦争論により体系づけられ、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦の教訓によって肉づけされたもので、昭和初期に至って、多くの軍事書に結晶した。 統帥綱領と作戦要務令はそのうちの傑作で、神武以来の伝統が数多の栄養を吸収し、参謀本部や陸軍大学校の英才たちの手によって、長年の苦心の結果、世界的に優良な兵書として見事に開花したものである。統帥綱領は日本陸軍の将官および参謀のために国軍統帥の大綱を説いたもので、わが作戦実行のための指導書である。したがってこれを読めば、日本軍の作戦計画や戦法が察知されるので、軍事機密として、特定の将校にだけ、厳重な規制のもとで、臨機閲覧を許された、文字どおり門外不出の書であった。このため陸軍大学校では、統帥綱領の講義のため、機密度の低い兵学の書である統帥参考(1932年刊)を使っていた。


統帥綱領

  1. 統帥の中心たり、原動力たるものは、実に将帥にして、古来、軍の勝敗はその軍隊よりも、むしろ将帥に負う所大なり。戦勝は、将帥が勝利を信ずるに始まり、敗戦は将帥が戦敗を自認するによりて生ず。故に戦いに最後の判決を与うるものは実に将帥に在り。
  2. 将帥の責任はあらゆる状況を制して、戦勝を獲得するに在り。故に将帥に欠くべからざるものは、将帥たる責任感と戦勝に対する信念なり。
  3. 将帥の価値は、その責任感と信念との失われたる瞬間において消滅す。
  4. 如何に優秀なる将帥も、敵に勝つことのできない者は、将帥としての価値なし。
  5. 戦争における勝利は、計画の巧なるより、実施において意志強固なるものに帰す。
  6. 戦争においては、百を知るよりも一を信ずるに如かず。百の知識は一つの信念によりて撃倒せられる。
  7. 死生の巷において、一事を遂行する力を有するものは、知識にあらずして信念なり。
  8. 将帥は事務の圏外に立ち、超然として常に大勢の推移を達観し、心を策案ならびに大局の指導に専らにして、適時適切なる決心をなさざるべからず。これがため将帥には、責任を恐れざる勇気と、幕僚を信任する度胸とを必要とす。幕僚とくに参謀長を信頼せず、しかもこれを更迭する英断なき将帥は失敗す。
  9. 将帥は部下の努力を有意義に運用し、徒労に帰せしめざる責任を有す。
    ・部隊がそこに位置するだけで、何もしなくても全体に貢献していることがある。部隊を右往左往させることは、必ずしも指揮官の迷いによるものではない。これらによる部下の不信不満を起こさせないためには、全般の状況と指揮官の意図を明示することが大切である。
  10. 危急存亡の秋(とき)に際会するや、部下は仰いで、その将帥に注目す。
  11. 幕僚は要所の資料を整備して、将帥の策按決定を準備し、これを実行に移す事務を処理し、かつ軍隊の実行を注視す。軍隊に命令を下し、これを指揮するは、指揮官のみこれを行うを得べく、幕僚は指揮官の委任なければ、軍隊を部署する権能なきことを銘心するを要す。
    ・幕僚は決して指揮官に非図ず。これを混同するに至らば、軍は最早や無政府状態に陥るべし。(デブネー)
  12. 人は意思の自由を有して、自己の存在を意識し、その存在をなるべく永く保持せんとする本能を有す。
  13. 統帥は部下および敵の意思の自由を奪いて、これを自己の意思に従わしむるものにして、統帥に関する学理は、意思の自由に関する学理なり。
  14. 統帥は戦略戦術と密接なる関係を有す。しかれども、戦略戦術と統帥とは同一のものにあらず。統帥の本義は、戦略戦術を、意思の自由の本能を有する人間に適用することにある。
    ・「経営学」と「経営」とは違う。
  15. 統帥者の意思は完全に自由を発揮せざるべからず。
  16. 攻勢は衆人の意思の自由を調和し、これを併せて一定の方向に対し、求心的に活動せしめ、守勢は衆多の人間の意思をして離心的に作用せしむる特性を有す。
  17. 統帥者が、意思の自由を有する被統帥者の精神を準備することなく、率然として統帥命令を与うるも、被統帥者は統帥者の意思を了解し、万難を排し、進んでこれを遂行せんとする熱意を生ぜざるのみならず、その実行に際して行う独断は、往々にして統帥者の意図外に脱逸す。

    ・精神の準備とは、思想の一致、相互の信頼、状況認識の一致、被統帥者に自信をつけさすこと等をいい、被統帥者が全般の作戦内において、如何なる地位にあり、如何なる価値があるかを了解せしむことも重要なり。
    ・学理上完全無欠なる戦略戦術も、統帥の精神効果を無視したるものは実効少なし。生きた人間の集団をして、その威力を発揮せしめんがためには、学理上の多少の利益を犠牲にするは、やむを得ず。

  18. 策をもって準備せられたる被統帥者の精神の効果は一時的にして、しかも後日必ず反動あり。
    ・人生意気に感ぜしめることが必要。(浪曲主義)
  19. 大軍を統帥するということは、方針を示して後方(補給)を準備することである。
  20. 統帥の根源は指揮官の決心にして、命令は決心実行の重要手段なり。

    ・命令が実行者を困惑、煩悶せしむること少しとせず。指揮官は命令すべきや否やについて、深甚の考慮を払うを必要とす。
    ・最高統帥の命令等は、各軍の指導上有効なるよりは、むしろ妨害となりたること多きは、戦史の訴うる所なり。命令はある予想のもとに下されるものにして、この予想は適中せざることもあり。大兵団の命令にして、実行せられざりしため、却って戦勝をもたらし、実効せられたるために敗戦に陥りたる戦例少なからず。

  21. 会戦は彼我の自由意思の衝突、信念の闘争にして、その勝利は敵の意思と信念とを破壊したるものの手に帰す。これがためには、敵の最も苦痛とする場所と時機において、苦痛とする衝撃を不意に加うること肝要なり。

    ・敗れたる会戦とは、敗者が敗れたることを自認したる会戦なり。(ジョセフ・ド・メストル)
    ・敵に敗戦を自認せしむるには、敵の全部を打つ要なく、敵の急所に打撃を加えれば可なり。軍は強大なりといえども、一の有機体を構成しありて、必ず苦痛とする所あり。

  22. 会戦においては、彼我共に過失錯誤頻出し、予期せざる事変は随所に発生し、彼我の弱点危機は至る所に頻発するを通常とす。従って会戦の統帥指揮に任ずる者は悲観と楽観との波浪にゆられ、しばしば手に汗を握ることあるべし。故に信念なき者、積極主動の精神に乏しき者は、この悲喜交々の千波万派に翻弄せられて、ついに心理の平衡を失し、統帥の節調を乱し、補うべき戦機も補うる能わず、各兵団の努力を分散消滅するに至らしむ。

    ・戦争においては、予見や広く見ることは不可能なり。各人は、目前の暗黒中の一時的光明に照し出さるる範囲内の情景によって、活動の方針を定めざるべからず。
    ・戦略的には五里霧中の状況の中でも、ともかくも戦術的利点だけでも押さえこめば、敵状も、敵の出方も明瞭になり、次に打つべき手段が生まれてくる。多くの会戦は、敗れたりと、自ら過早に信ずる者の敗北に帰している。(コンラッズ)

  23. 我敗れるかと感ずる時は、敵もまた敗れるかと思っているときである。夜が明けてみたら、両軍とも負けたと思い、退却していることが少なくない。

「統帥綱領」と「統帥参考」の統帥権について

「統帥綱領」は1928年(昭和3)に日本陸軍の高級指揮官(方面軍司令官・軍司令官)に対して作戦遂行及び国軍統帥の大綱を示すために制定されたものである。敗戦時に軍の最高機密として一切焼却されたと云われる。1962年(昭和37)に偕行社の有志の手で「統帥綱領・統帥参考」として復元刊行されたがやがて絶版となった。その後、偕行社の理事長をされていた大橋武夫先生の手により1972年(昭和47)「統帥綱領」(建帛社)として再刊され、今日まで貴重なロングセラーとなっています。しかし再刊されるにあたり「統帥参考」の統帥権・統帥と政治・その他一部は割愛されています。「第三篇 本篇に掲げるところは、情勢の大きな変化により、現代に適用することはできないが、参考のため記載する・・」に始まるこの数十枚の削除原稿は遂に世に出ることはなかったものであるが大変重要な日本の歴史的なテーマであり貴重な原稿(御遺品)です。本来、第一篇や第一章に掲げられたものは割愛(削除)されるようなテーマではなかったはずである。当時の様々な経緯が偲ばれます。


■ 大橋先生の三十三回忌にあたり、ご遺族より貴重な御遺品を賜りました。下記サイトにてご紹介させていただきます。

「大橋武夫先生三十三回忌」
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偕行社偕行社 建帛社建帛社 削除原稿統帥権・削除原稿
統帥権・削除原稿削除・統帥権 統帥権・削除原稿①削除・統帥権 統帥権・削除原稿②削除・統帥権

-- 参考文献 --

■「兵書抜粋」大橋武夫著 私家版(1976)■「兵書研究」大橋武夫著 日本工業新聞社(1978)■「統帥綱領」大橋武夫著 建帛社(1972)■「秘本兵法・三十六計」大橋武夫著 徳間書店(1981)■「鬼谷子」大橋武夫著 徳間書店(1982)■「闘戦経」大橋武夫著 私家版(1982)■「兵法経営塾」 大橋武夫著 マネジメント社(1984)■「新釈孫子」 武岡淳彦著 PHP研究所(2000)■「日本陸軍史百題」武岡淳彦著 亜紀書房(1995)■「弱者の戦略・強者の戦略」武岡淳彦著 PHP研究所(1989)■「兵法と戦略のすべて」武岡淳彦著 日本実業出版社(1987)■「兵法を制する者は経営を制す」武岡淳彦著PHP研究所(1983)■「中国古典新書六韜三略」岡田脩訳 明徳出版社(1979)■「孫子呉子全訳武経七書」守屋洋・守屋淳著 プレジデント社(1999)■「司馬法、尉繚子、李衛公問対、全訳武経七書」守屋洋・守屋淳著 プレジデント社(1999)■「六韜、三略、全訳武経七書」守屋洋・守屋淳著 プレジデント社(1999)■「中国古典名著・総解説」自由国民社(1982)■「東洋文庫 戦国策1.2.3」常石茂訳 平凡社(1966)■「五輪書」神子侃 徳間書店(1976)■「宮本武蔵」大倉隆二著 吉川弘文館(2015)■「五輪書」渡辺一郎 校注 岩波文庫(1989)■「兵法家伝書」渡辺一郎 校注 岩波文庫(1985)■「物語柳生宗矩」江崎俊平著 社会思想社(1971)


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「兵法小澤様問対」
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(兵法塾外伝 平成・令和)

2009年の3月14日に初めて「小澤様」からの掲示板への書き込みがあり、その都度、拙いご返事をお返ししてきましたが、いつの間にか14年も経過して、世相も時代も大きく変化してしまいました。その時勢に応じた大橋武夫先生、武岡淳彦先生の著書やエピソード及び古典、ビジネス書をテーマにした「小澤様」との掲示板での対話が日々研鑽の証となり、個人的にも人生の貴重な足跡となりました。2013年頃より大橋先生の「お形見の書籍」を電子書籍として作成させて頂いていましたが、この度、「兵法塾・掲示板」での「小澤様」との兵法に関するやり取りを、保存と編集をかねて電子書籍として公開させていただきます。引き続き、ご指導ご鞭撻を賜れば幸甚でございます。
兵法 小澤様問対 上 【9】~【59】2009(平成21)年3月14日~2010(平成22)年6月26日
兵法 小澤様問対 中 【60】~【115】2010(平成22)年7月28日~2013(平成25)年2月17日
兵法 小澤様問対 下 【116】~【178】2013(平成25)年3月3日~2023(令和5)年1月5日

2023年12月

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兵法を制する者は経営を制す 弱者の戦略・強者の戦略
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1987年の暮れに大橋先生の奥様より、お形見分けとして先生の蔵書を「兵法経営研究会」に分けていただくことになり、事務局の中内さんより希望の書籍を聞いて来られたので、「兵書抜粋」と「闘戦経」をお願いしたら、会長の竹林さんより丁寧な手書の宛名と包装で、それぞれ十冊ずつ実家に送って頂いた。「兵書抜粋」は1962年にベストセラーになった「兵法で経営する」を復刊されるにあたり「多忙な皆さんに、手っ取り早く兵法をわかっていただけるよう、これまでに蓄積した私の知恵のありったけを絞り出して、新たに書き下ろした。」と言われているように兵法経営の原典「兵法で経営する(復刊)」1977年の特別な付録として初めて世に出されたもので、その後1980年開講の「兵法経営塾」の基本教科書(小冊子)として活用された。 「闘戦経」は大江匡房(1041~1111)著伝で明治初期に研究者により毛利家の書庫より呉の海軍兵学校に伝わった。戦後の1962年頃、兵法経営を研究されていた大橋先生に東部軍参謀時代の参謀長高島辰彦氏より秘蔵の一本(昭和九年木版刷)が下された。開講三年目頃の「兵法経営塾」では鬼谷子や三十六計とともに日本の闘戦経も教材になり、当時は私家版として出版された「闘戦経」が「兵書抜粋」とともに重要な教科書となった。塾生たちが細やかな喜寿のお祝いをしたら先生はそのお礼に「兵法経営塾」(1984マネジメント社)を出版された。「闘戦経」は、その付録として初めて世に広く公開されたものです。「兵書抜粋」「闘戦経」は一般の書籍として刊行されたものではなかったが、先生のご遺族にご無理をお願いして2013年に電子書籍として公開させて頂きました。「兵書抜粋」には大橋先生が抜粋された、「孫子・君主論・政略論・戦争論・統帥綱領 統帥参考・作戦要務令」が収録されています。その他の兵書はWebサイト「兵法塾」https://www.heihou.com/を主宰するにあたり自らの研鑽をかねて大橋先生・武岡先生の著書とその他の古典を参考にして抜粋収録したものです。Mobile用の「兵法塾」に収録できなかったものを新たにWebサイト「兵書抜粋」として公開させて頂きました、お役にたてば光栄です。

-- 2022.12.08 サイト主宰者 --


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