海戦要務令・解説
「海戦要務令 明治三十四年(1901年)海軍省 」海戦要務令は艦隊以下のための戦術・戦技を説いたもので、陸軍の作戦要務令に相応し、これと同様、実行力を背景とする教令であり、勅裁により制定された権威のあるもので、作戦要務令と違うところは軍事機密の扱いを受けたことである。海戦要務令は明治三十四年二月、秋山真之少佐の起草した「海戦に関する綱領」を骨子として制定されたもので、以後、昭和九年に至るまで五回改訂されているが、彼我の空母群間で行われる航空決戦が海戦の主体となった大東亜戦争の新情勢に適応する改訂は、ついに行われないままで終わっている。さらに厳重な外部への漏洩防止は内部への普及を妨げ時勢の推移に応ずる改訂意欲を鈍らせた陸軍の「統帥綱領」に共通する。
綱 領
一、軍隊の用は戦闘に在り。故に凡百の事皆戦闘を以て基準と為すべし。
二、軍紀は軍隊の生命なり。和諧は軍隊の血液なり。軍隊の行動、指揮官の意図の如くなるを得るは、一に厳正なる軍紀と同情ある和諧とに因る。故に軍紀は不断の振粛を要し、かつ和気を以て一貫せざるべからず。
三、兵戦は上下の意思疎通し、協心戮力以て協同の目的に進むに非ざれば効果顕れず。各級指揮官は常に意をここに存し、よく最高指揮官の意図を知了し、戦局の情勢に通じ、自己の任務をわきまえ、以て協同目的の達成に最善の努力を致すを要す。
四、独断専行は情況の変化に応じ、戦機を逸せず協同の実を挙ぐる所以なり。然れども、これをなすに当たりては、戦勢の大局に鑑み、上級指揮官の意図に合することに努め、専恣に陥らざるを要す。
五、勇断決行は戦勝を得るの道なり。徒に巧緻を望みて遅疑することあるべからず。
六、典則は運用を待って始めてその光彩を発揮す。各級指揮官は宜しく機宣に応じてこれを活用すべし。固より濫りに典則に乖くべからず、またこれに拘泥して実効を誤るべからず。